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◆・夏期限定・◆
「あちぃ~。絶対俺達、迷ったな」
長らく歩道を歩く僕達がやっと巡り合った日陰。
同僚の竹田は限界だったのか早足で飛び込み、目の前で『ふうふう』と荒い息を吐き出す。
さっきから長いこと握り締めたままのハンカチを無造作に広げ、次々に噴き出し止まらない汗を拭っている。
小脇にずっと抱えたままの上着も、腕からの汗を吸収し湿っているように見える。
「なあ、松山。おまえさ、暑くねえの?」
竹田は首を拭きながら、軽く手で自分を扇ぎ空を見上げる僕にそう訊ねた。
「あまり汗をかかない体質だからよく聞かれるけど…僕だって寒いなんて思ってないよ。って言うより、かなり暑い」
「だよな~……俺は汗っかきだから損するんだわ。学生時代はバレー部でさ。汗が落ちてたら『竹田だろ、拭いておけ』みたいな。あんまり俺に言うから『DNA鑑定してくれよ』って頼んだこともあるぞ」
竹田は身長も180以上あり、がっしりとした肩をしながらもすらりとした長身で、もう海水浴にも行ったらしく、やや日に焼けた男らしい顔立ちの男だ。
それに比べて僕は小柄で色白のひょろひょろ、顔だって地味な女顔だと言われてきた。
並ぶと差を感じずにいられないよ。
「しかし、腹減ったな……あの鬼の部長、よりによってこんなとこを俺らに押し付けやがって」
「ふふふ……だよね。まあ、あの顔じゃ神様には見えないよ。怒鳴ってる顔なんて特に……」
笑う僕に『見た目からだよな?』と竹田は苦笑いする。
「なあ、諦めてもう帰らねえか?この辺は新規なんて見込みねえだろ?どうも見るとこ見るとこ、うちの商品には縁のない会社ばっかじゃねえか」
「それっぽい会社が全然ないのに、部長もなんでこの地域を言ったんだろ?地図でも見間違えたのかな?」
不思議に思い首を傾げる僕に、両手を軽く上げ呆れたような顔をする。
「あの髪の少ない頭には、今年の紫外線がきつかったんだろう。毒素が身体中に回り、ついにおかしさ倍増になったのかも?」
「……と竹田が言ってたって報告しておこう」
「ダ~メ。松山も同罪だっつうの」
焼けた顔に反した白い歯を見せて笑う。
誰に対しても明るくこんな調子だ。
他人と合わせることが苦手な僕にとって、竹田は憧れる存在でもある。
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