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タクシーは呼び止める前にスピードを落とし始め、僕達の少し手前で止まった。
「大丈夫ですか?」
50代くらいに見える運転手さんが心配そうにドアを開き、わざわざ降りてきてくれた。
「うずくまっておられるのが見えたもので……御気分でも悪くなられましたか?少し顔色も良くないですし……」
『あ、大丈夫です』と竹田は慌てて立ち上がり、
「ただ…道がわからなくって困ってました……あははは…」
元気な姿を装いながら再び汗を拭く。
「この辺りは道を一本間違えただけでも景色がなんとなく似ていて、慣れていても迷いやすいんですよ」
頭の上に暑そうに手を翳し、あちこちを指差し教えてくれているが、僕も竹田も聞いたところでわかるはずもなく、二人で顔を見合わせる。
「あの宜しければ……もし空車なのでしたら、我々を乗せていただけないでしょうか?駅の近くでどこか食事ができるところへ行きたいのですが」
竹田は背の高い体を屈め運転手さんに訊ねた。
「え?」
運転手さんはドキリとした顔で僕達を見る。
その表情に『あれ?』と思い、僕はもう一度車を見た。
「タクシー……だよな?」
僕はそう呟いたが、車に疎い僕が見てもわかるくらい、この車は見た目は新車のように新しいが、最近の形より角張り、随分古い型に見える。
「私はかまいませんが……」
運転手さんは悩んでいるような顔で中へと視線を移した。
それにつられて中を覗くと、後部座席の真ん中に、どこか外国の原住民族の土産のような子どもの姿をした、赤ん坊くらいの大きさの人形が置いてある。
火のような髪に真っ黒な肌、不気味に無表情な目が天井をぶち破らんばかりに睨みつけ、目的のあるまじないなのか、顔には何かの模様が描かれている。
子どもの頭に似つかわしくないほど大きな半開きの口の中には、重なり合った無数のトゲのような歯が不気味に光っている。
そう、一言で表現するなら“不気味”なんだ。
「大丈夫です。あの子は今は眠っていますから、起こしたりすることのないように、気を付けてくれさえすれば……」
「眠って……起こす?人形ですよね?」
「おやおや……あの子が人形に見えるんですか?」
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