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「ん?おっ……松山、気がついたか?」
聞き慣れた声が心地好く耳に届く。
「……た…けだ?」
「大丈夫か?気分悪くないか?」
ボンヤリ目を開けた僕を、心配そうに竹田が見下ろしている。
「あっ!!あのデッカイ蚊は?それに竹田、目玉が落ちて……ミイラになって…」
「は?何言ってるんだ?夢でも見たんだろ?デッカイ蚊で、俺がミイラになって目玉が落ちて……なんだか、ひでぇ役回りだな…」
竹田は僕の額を軽く指で弾いてから、『よかった…』と僕の髪を撫でた。
「おまえ、タクシーを調べ始めたらいきなり倒れたんだぞ。運よく通りかかったタクシーに乗せてもらって、今は病院に行くところだ」
「そう……ありがとうございました。竹田、ごめんね。あっ…と、それから僕の体勢、今はどうなってるの?なんだか体が怠いからか、よくわからなくて…」
「松山は膝を曲げて寝てる。俺の……膝枕でだけど…悪い?もしかして汗臭いか?」
竹田が照れ臭そうに赤い顔で答える。
「悪……くない……このままが…いい」
僕は少しだけ体勢を変え、竹田のシャツの裾を握り、やや汗ばんで湿っている腹に顔をつけた。
男らしい竹田の汗の臭いもするが、やはり臭いを気にしてか、シトラス系の香りの何かを使用しているようだ。
今は竹田のこの香りに、包まれてたい。
「僕はずっと……このままがいい……それから、後で僕の話を聞いて欲しい……嫌なら…ちゃんと断ってくれていいから…」
「ん?ああ、いいよ。楽しみにしておく」
チラリとミラー越しに視線を感じた。
運転手さんが『ふっ…』と笑ったようだった。
「重度の熱中症の症状に、全身の疲労やめまい・幻覚などの神経症状などがあるそうです。お客様は幻覚を見られたのかもしれませんね。真夏の悪夢のような幻覚を……さあ、病院に急ぎましょう」
運転手さんの声に竹田が『お願いします』と答えた。
だけど僕は、まだ気づいていなかった。
このタクシーがかなり古い型だと言うことを……
あの人形が、運転手さんの隣に座っていることを……
□おわりんご□
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