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――カキーン!
あの夏にはない奇跡が起こった。楠木くんがボールを打った。
「ホームラン、ホームラン、ホームラン!」
遠くに跳ぶボールを見ながら応援席でそう叫ぶ。その間にも三塁にいる篠山くんがホームベースを踏んだ。
映画のワンシーンを観ているようだった。楠木くんの打ったボールがスローモーションのようにゆっくり見えた。賑やかな応援席の音がほんの一瞬、途切れた。
「――アウト!」
楠木くんが打ったボールを必死に追いかけている人がいたことなんて、少しも気付かなかった。必死に伸ばしたグローブにポトリとボールが落ちた。
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