大人免許

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全然知らなかった。アパートの自室でノートパソコンを広げ、ホームページを眺めながらも俺の心は半信半疑だった。 こんなの昔からあったか?取得義務ってことは絶対どこかで教わっているはずだよな。科目で言ったら公民か政治経済か?記憶にない。授業中ほぼ爆睡だったからだ。新聞も取っていないし、インターネットも時事ニュースなんてクリックしない俺だ。とは言うものの、それにしたって今の今まで耳にしたことないなんてことがあり得るか?壮大なドッキリの可能性は?いや、ない。可能性もないし、メリットもない。まさに誰得だ。ということは本当に俺が知らなかっただけなのだろうか。誰か教えてくれたっていいじゃないか。 いや違う。あまりにも当たり前過ぎて話題に出ないだけなのか。 もしかすると、日常会話に出てくる「免許」という言葉は自動車免許ではなく、この「大人免許」のことを表していた場合があるということなのか。 俺はパソコンの横に転がしていたスマホを取り上げると、チャットアプリを起動して同級生の松川にメッセージを送った。 ――マツ、暇?―― 返信を待つ間にホームページを隅々までチェックする。一番重要なのはお金だ。大人になるにはいくら払えばいい。すぐに受講料のページに辿り着く。全て含めて十五万円。学割を利用した場合は十万円だった。思っていたより良心的だ。自動車免許よりずっと安い。義務化されているから国が税金で負担しているのだろうか。これなら夏休みの間に通い始めることができる。 スマホのランプが点滅していた。松川ら返信が来たようだ。 ――今日は今からバイト。飲みの誘いなら悪いけどまた今度で。すまん!―― 俺はすぐにメッセージの返信を打ち込んだ。 ――いや、そうじゃなくて。あのさ、マツって、大人?―― 打ち込んでいて複雑な気分になる。 しかし思い返してみれば、自分の周りであいつは大人だとか子どもだとか、そんな会話は日常的に交わされている。単なる例え話かと思っていたが、実はこんな具体的な意味を持った会話だったのか。妙に納得させられてしまう自分がいた。松川から返信が届いた。 ――そうよ。二十歳になってすぐかな。大人の男よ、俺―― 話しが通じている。取り様によっては卑猥な意味に聞こえなくもないが。だが松川の初体験は十八の夏だ。新歓のコンパで自信満々に語っていたのをよく覚えている。 ――なんで誘ってくれなかったんだよ?――
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