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いつからこんな時代になってしまったのだろうか。
そういえばバイト先の店長が言っていた。ひどい時代があったって。
ネット社会が加速して、ネット上では些細なことから政治に関することまで愚痴や文句や誹謗中傷が溢れかえった。
人と人が直接会って話す機会も減って、コミュニケーションが希薄になってた。
相手の顔色を窺うこともせず、思ったことを何でもすぐに口に出してしまう人間が増えた。
その結果、日本人は常識のない「子ども」ばかりだと、世界から「子ども大国」のレッテルを貼られた。
この状況を打開すべく導入されたのが大人免許制度だ。
これが正しかったのかどうかは誰もわからない。誰が本当のことを言っているのかさっぱりわからないのだから。
「子ども」からやり直しか……。確か義務教育からだっけ?もう一度成人するまで十三年だ。一回りもの人生を無駄にすることになる。いや、本当に無駄なのだろうか。俺が再び大人になったとき、まだこの制度は成長し続けているのだろうか。
窓の外には夜景が広がっている。眼下に見える交差点には、整然と足並みを揃えて歩く大人たちの間を小走りですり抜けていく子どもたちの姿があった。
十三年後の大人たちに淡い期待を抱きながら、俺はゆっくりと席を立って、黒服の男について店を後にした。
『大人免許』完
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