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◇
聞こえてきたチャイムの音で我に帰る。
気が付けば既に放課後で、クラスメート達は各々好き勝手に行動を始めていた。
文句を言いながら部活に向かう者、或いは教室で友人と話に興じている者、また或いはさっさと帰宅しようとしている者など様々である。
そんな喧騒の中にあって、クロウ・カズキはただ呆然と人の流れを眺めていた。
……何か、夢を見ていたような気がする。それが果たしてどんな夢だったのか思い出すことはできないが、漠然とした違和感だけが胸に蟠っている。
確かに何かを見ていた。それはなんだかとても切なくて悲しい、忘れてはいけないものだったような気がするのに──
「おーいカズキー」
と、不意に教室の入り口から誰かが自分を呼んだ。
見れば隣のクラスの友人、キリシマ・タカヤが鞄を提げてこちらにやって来ているところだった。
「あぁ、タカヤ。どうしたの?今日って何かあったっけ?」
「おう、早く部活行こうぜ。今日はやることあるから早く集合しろって昨日部長が言ってただろ」
そうか、もう部活の時間だったか。
早く準備をしなくてはと鞄に手をかけた時、今日はそれが叶わないのだということを思い出す。
「あー……ごめん。今日はダメだ。今日は僕、部活出られない」
「えー?どうした?何か用事でもできたのか」
「検査の日なんだ。病院行かなきゃ」
「病院?……あっと、そうだったな。ワリぃ、すっかり忘れてた」
「ううん。僕の方こそごめん」
「せっかく迎えに来てくれたのに」と末尾に加えて手を合わせるカズキに、タカヤの方は笑って応える。
「そういうことなら仕方ねえって。ま、部長には言っとくから。気を付けて行ってこいよ」
「うん。ありがとう、タカヤ」
「あ、その代わりカズキの分の仕事はきっちり残しとくから安心しろよ。とりあえずバランス調整だろ、それからスキル考えるだろ、あとは──」
「さ、流石に多くない!?それ僕だけじゃできないって!」
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