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人生を化かされているようだった。
立ち込めた深い霧の中、デフォルメされたキツネの白い仮面をつけた者たちが小ぶりなリュックサックを抱えた冴えない男を囲う。朝八時の戦闘員を彷彿とさせる奇声をあげて跳ねながら男との距離を狭めていく。
「イーッ!」
戦闘員達が一斉に男へ飛びかかった。なされるがままに倒された華奢な男を戦闘員の身体と霧が覆い隠す。アシンメトリーといえば聞こえだけはいい不作法に伸ばされた髪の奥にある赤銅色の瞳を、赤い隈取を引いたキツネ達が見下ろす。身体中を弄られながら、ときどきオレンジの髭が描かれた仮面の側面がガシガシと顔や腹や足に当たった。
「イーッス」
しばらくして目的を果たした戦闘員たちは戦利品を抱え、がやがやと騒ぎながら霧の向こうへと消えていった。後にはトランクス一枚の男が残されるのみ。靄ばかりで空は見えない。
形だけの遊具が置かれた無人の寂れた砂地の公園で、たった一人裸同然の男が呟く。
「……なんだこれ」
「イーッ!」
遠くないところでまた奇声がきこえた。反射的に男の身体が縮(ちぢ)こまる。男はおずおずと立ち上がり、トラウマになるには十分すぎた出来事を想起しながら声がする方向を窺った。やはり霧でよく見えなかった。
訝しく思い、しかしなにがあったのか確かめにいく気には到底なれず立ち尽くしていると、やがて霧を分けて奥から人影が男に近づいてきた。
「いやー、やられたやられた、とんだ不幸だ」
飄々とした、短く逆立った赤茶色の髪をした少年だった。ややツリ目でありながら表情は柔らかい。まだ腹筋は割れておらず、剃っているのか脛の毛は生えていなかった。ゼブラ柄のトランクスを履いただけ(・・)のそんな彼に、男が抱えているような恥ずかしさは感じられなかった。
「僕は藤宮(ふじみや)秀(しゅう)」
「は?」
自己紹介よりさきにすることがあるだろうと、男は秀と名乗った裸同然の男を見やる。しかし秀の細長のキラキラした目は男にも?%ッじこと?≠?求めていた。
「……海鳴(うみなり)祐介(ゆうすけ)」
仕方なく男――祐介も名乗った。
「祐介。そう祐介。よろしく」
妙にイキイキと声を弾ませて秀は祐介の背後に回り、ペロリと自分の上唇を舐めてから祐介の日焼けを知らない身体に抱きついた。
「は?」
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