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困惑する祐介には構わず、秀は目先の欲求を優先させる。撫でるように手を祐介の細い右腕から指先へと這わせ、愛おしそうに呟いた。
「すっごい硬い」
秀が人差し指と薬指で、祐介の右手首に装着された緑色のリングを器用に弄る。
「なんだよ!」
全身を鳥肌が覆うのを感じながら祐介は秀を振りほどいた。細い目を開いて秀は渇いた声で笑う。
「そんな邪見にしないでよ。見たとこ歳近いみたいだし」
「十七」
「十六。ほらね祐介さん」
「さんとかいいよ。てかもっと若く見えるけど?」
「あらまっ」
おどけて口許を隠す秀の右手首には白いリングがつけられていた。祐介は改めて実感する。自分が選ばれてしまったことを。彼と同じように。彼と同じものとして。
「……白か」
「うん、そだね。『治癒待ち(リカバーユ)』。順応早いね」
「バカ言うなよ。徹頭徹尾わからん。さっきのやつらはなんだ?」
「狐熱月(キツネツキ)。最近幅をきかせてるグループさ」
「追剥か?」
「も、やるし、花を植えたりもする」
「なんだそれ」
理念やまとまりを感じない組織の内情も気にはなったが、祐介にはそれよりも先に解決すべき火急の案件があった。
「服、どうしよう」
「なーに心配ない。??ここ?≠ナはこういうことはよくある。みんな慣れっこさ」
「オレが恥ずかしいの」
「……ふーん」
秀は興味ありげに祐介のことを覗きこむが、祐介が嫌そうにしたのですぐにやめる。
そしておもむろに彼は霧を分けて進み錆びついたジャングルジムへと登った。
「まあこれからいろいろあると思うけどさ、お互い似たもの同士仲良くやろうよ」
頂上に立ってガバリと両手を広げる。同時にあれだけ立ち込めていた霧がスッと身を引いた。
「というわけで――――」
遠くのほうに聳(そび)え立ち人々を見下ろす真っ黒な管制塔。境界を示す頭一つ飛び出したアーチ形の四つのゲート。空をと地上を行き来する小型衛星カメラとパラグライダー。市場やスポーツジムを宣伝しながら漂う色鮮やかなアドバルーン。いくつかのビル。マンション。アパート。一戸建て。祐介と秀に視線を止めながら道を行く人々。晴天。
――ここは、歪んだ街。“人格破綻者”のレッテルを張られ、健常者から隔離されたこの街では、外より少しだけ多くのことが起こる。
「ようこそ。人格破綻者が集う、更生施設兼、実験場兼、見世物の舞台――壊物街(コラプトシティー)の表層へ!」
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