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パンツ一枚の人格破綻者が発した啖呵が壊物街(コラプトシティー)によく響いた。
こいつも歪んでいるのだろうと、祐介は思った。
†
公園の外、アスファルトの道を歩いている人の視線を肌で受けて祐介は股間を手で隠す。
「おい、見られてるんだけど!?」
「そりゃパンツ一枚の男が二人で公園にいたら、見るでしょ」
「話が違うぞ!」
「でもその興味も足は止めない。そういうことさ」
逆にちょっと奇抜な服を着ていると思えば楽なもんだよ。そう秀は言葉を結んだ。
こいつとは関わらないほうがいいと見切りをつけ、しかし過ぎ去っていく人間を引き留め助けを請う勇気もなく祐介が悶々としていると、流れていく人の中で一人の女性が足を止めた。
「きゃー!!」
ようやく当然の反応。二人の雄姿を目視するや否や顔を手で覆い叫んだ彼女の、両肩で切り揃えられて空気を含んだ黒髪が陽光を浴びて健康的に外側へ跳ねる。
「おっ」
学校の制服らしい白のカッターシャツと紺のスカートに身を包んだ彼女を見て慌てる祐介とは対照的に、ゼブラパンツの男は手を振って揚々と声を飛ばした。
「なっちゃーん!」
聞き覚えのある声で呼ばれ、甘夏蜜柑(あまなつみかん)は顔を覆ったよく日焼けしている指の間隔を広げる。
「……秀くん? え、なんで裸なの?」
「この男に乱暴されちゃって」
「おい!」
手を下ろして蜜柑が丸い大きな目で祐介を睨む。そこに軽薄な秀の言葉を疑う素振りはなかった。垂れた目尻をキリリと上げて祐介を睨む彼女に、秀は肩をあげておどけた素振りで言う。
「ごめん、ウソ」
「え、ウソ?」
「狐熱月(キツネツキ)のやつらにやられちゃってさ。悪いんだけど、服、持ってきてくんね?」
「え、うんわかったちょっと待ってて!」
二つ返事で了承した蜜柑はガバリと踵を返し来た道をダッシュで引き返す。褐色の手首には秀と同じ白いリングがつけられていた。
先ほどの冗談を問い詰めようとした祐介だったが、秀が視線を逸らし続けるのでそっちは折れることにする。
「知り合いか?」
「甘夏蜜柑十四歳。危険度(フェイズ)は『治癒待ち(リカバーユ)』。彼氏募集停止中。両親は服屋で、郵便配達のアルバイトの傍らによく手伝っている。あ、おそらくまだ処女」
「そこまできいてないよ」
「でも祐介にとっては泣きっ面に服屋だろ?」
「おまえもだろ」
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