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「僕はむしろこのままで街を練り歩きたかったよ」
「ああ……そういう……」
壊物街(コラプトシティー)に集められる人間はある一点に突出して歪んでいる。秀が??そういう方向?≠ノ歪んでいるのだとして、祐介は緩んだ表情で寛容を示しながら静かに一歩遠ざかった。
「違うって」
すかさず離れた距離を秀が詰める。
「そんくらいしたほうが、祐介が早くここに馴染めるじゃん」
「馴染まなくていい。オレはすぐにここを出ていく」
「えー?」
懐疑と興味をない交ぜにした顔で秀は祐介を見る。つかめない雰囲気の秀に話すべきか躊躇したが、蜜柑が戻って来るまでまだ時間がかかりそうだったので、祐介は身を小さくして滑り台に隠れながら口を開いた。
「誤診なんだよ、オレのは」
「ゴシン?」
全国規模で年に一回ある“健常診断”に平凡な高校の生徒の一人として参加した祐介は、先週書類で“人格破綻者”のレッテルを貼られた。
「もちろん抗議の電話もしたんだけどな。『もう一度詳しく調べるからとりあえず街にいっててくれ』ってさ。こっちも準備とかいろいろあるんだからさ。ちゃんとしてほしいよ」
「ずいぶん急がされたね」
「結果が『異常者(ディファレンター)』だからな。このリングも偏見を助長するみたいで鬱陶しい。オレは至って普通のまっすぐな人間なのに。こんなのは間違ってる」
壊物街(コラプトシティー)はその危険度を参考に五つの区域に分けられている。
健常者と然したる変りはない、軽度の人格破綻者が暮らす比較的治安の良い『治癒待ち(リカバーユ)』。
更生しなければ健常者に悪影響を与えかねない人格の者が暮らす『異常者(ディファレンター)』。
健常者に対して一方的な暴力行為を働く可能性を有した者が暮らす『破綻者(バンクラプティー)』。
『破綻者(バンクラプティー)』の要項に加え、とりわけ危険な思想を持ち、早急に隔離する必要がある者が暮らす『曲折(ツイスト)』。
そして厳しく情報規制が成された、管制塔のある『Z区域』。
『治癒待ち(リカバーユ)』が白、『異常者(ディファレンター)』が緑、『破綻者(バンクラプティー)』が黄、『曲折(ツイスト)』が赤に染められたリングの装着をそれぞれ義務付けられ、居住区域だけでなく潜在的に存在そのものが区別されている。
祐介はその『異常者(ディファレンター)』に区分される。
「大変だね」
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