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「あのぉ・・・」
「はい、お決まりでしょうか?」
「あ、いやっ、まだ・・・」
「??」
お客が店員に声をかけるのは注文が決まった時か、それとも水が欲しい時かが大半。
入店して間も無くならおそらく殆どが前者であろう。
だがこの客ときたら注文をするどころか、メニュー表すら開いていない。
(おすすめでも知りたいのかな?)
穂奈美は顔こそは笑顔のものの、心の中では首を傾げていた。
「あ、あっ、すすすいませんっ!こ、コーヒーを・・・」
そんな穂奈美の様子に気付いたのか、客がようやくコーヒーを注文。
その様子を見ていた雅樹は手早くコーヒーの用意をし始めた。
店内に広がる挽き立て豆の香り。
それまでハンバーグやナポリタンと言った食事の香りが満ちていた店内が、一瞬にして苦く、それでいてどこか果物のような甘酸っぱさが感じられる香りで客達は食事の手を止めこの香りを楽しまずにはいられなくなった。
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