内田真人【17歳】『リアル人生デスゲーム』<自宅・ログイン>

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内田真人【17歳】『リアル人生デスゲーム』<自宅・ログイン>

 田舎町にある栄華(えいが)高校に通う優秀な生徒 内田真人(うちだ・まさと)(17歳)は、母親の美由紀(みゆき)とソファーに座り、来年の大学受験について真摯な面持ちで話し合っていた。  「奨学金はオレが大学卒業して社会人になったらしっかり払うよ」  「家にお金があったら、苦労しなくていいのに……ごめんね、真人」  「何言ってんだよ、クラスにも母子家庭で同じ境遇のヤツいるしさ、オレひとりじゃないって。ポジティブにいこうぜ」  「真人……」  真人が二歳の頃に父親は失踪した。あまりにも幼かったために、父親の記憶は全くないのだが、ギャンブル依存症で借金ばかり作る父親と離婚が成立した。その後、約束した慰謝料すらなかったので、それについて話し合っていたとき、突然、姿を消した。その後、失踪届を出したが、未だ行方はわからず。    美由紀は近くのスーパーでレジ打ちの仕事をして真人を養ってきた。貧しくても笑顔だけは絶やさずになんとか生活してきたが、来年は獣医師の夢を持つ真人の受験を控えている。お金を工面したいところだが、奨学金に頼るしかなさそうだ。    「奨学金を返す時には私も手伝うわ」  「その頃オレは無事、獣医師になってるよ。安心して」  息子の言葉に目頭が熱くなった。    (女手一つで育てて、父親がいない分、苦労させてしまったのに、本当に優しい子に育ってくれた。私の宝物だわ)  ソファから腰を上げた台所へと向かった美由紀は、エプロンをつけ、調理台に立った。  「今夜のご飯は真人が大好きなミートボールカレーよ」    「やった! それ好物だよ」  「知ってる。いっぱい作るからたくさん食べなさい」  「うん。あ、そうだ。今日は夜遅くまで勉強するから、コンビニで夜食を買ってくる」  真人がソファから腰を上げると、台所に立つ美由紀は「ついでに牛乳買ってきて」とお使いを頼んだ。  「いいよ」  玄関を出た真人はアパートの通路に立ち、自宅部屋202号室の隣室203号室に目をやった。  先週まで住んでたカップルが出ていったので静かになった。喧嘩の声も激しいが、その後の仲直りのセックスの喘ぎ声も半端ではなかったため、まったく勉強に集中できなかった。  (静かな環境って最高)  階段を降りた真人は、壁に設置されたポストを横切って、アスファルトに降り立った。  夕焼けに染まった鰯雲が広がる空を見上げた。  (明日はいい秋晴れになりそうだな)  歩道を歩いて横断し、アパートメントの向かい側に建つコンビニへ向かった。住んでいるアパートメントは学校も近く、コンビニも近い。壁も薄く、築年数も古いが、立地条件だけは良い。  コンビニに入ると、いつもの男性店員が無愛想な挨拶をしてきた。  「いらっしゃいませぇ」この言葉は接客業の決まりだ。とりあえず、ルールに従う。「こんにちは」  真人は買い物かごを取り、店内を歩く。  (愛想悪い……)  店員は挨拶を済ませたあと、同僚の女性店員と雑談を始めた。  「仕事終わったらごはん食べに行こうよ」  「ええ~彼女いるくせに~」  「いいじゃん、黙ってればバレないしさ~」  真人は店員を一瞥した。  (安い賃金で真面目に働くのが馬鹿らしいのかもしれないけど、気分悪いよなぁ。店長が店頭にいる時だけ真面目ぶって、マジでチクるぞ。   そう言えば店長の名前なんだっけな? ああ、そうそう竹ノ内智也(たけのうち・ともや)さんだ。黒縁メガネにメタボなおっさんだけど気さくで明るくて優しい人。モテる事ばっか考えてそうなあの金髪店員も見習えよな)    真人は飲料コーナーに進み、美由紀に頼まれた牛乳と大好きなイチゴオレを買い物かごに入れた。陳列棚からポテトチップスを取り、要冷蔵コーナーに向かい、夜食のサンドイッチを手に取った。  レジカウンターに買い物かごを置くと、男性店員がやってきた。  「いらっしゃいませぇ」  「…………」  (超めんどくさそう……お客がいなきゃ店潰れるじゃんよ……)  名前は気にしたことはなかったが、初めてネームを見てみた。  佐久間和樹(さくま・かずき)。  (たぶん二十歳くらい。こんな二十歳にはなりたくない)  商品の合計を言う。  「2030円になります」  「え?」  (そんなに買ってないし)  女性店員が和樹を肘で突き、レジに表示された商品を指す。  頭を傾げた和樹だが、すぐに自分のミスに気づく。  「やばい、またやっちゃった。同じ商品を三つスキャンしていた」  女性店員が注意する。  「気をつけてよ。店長にまた怒られるよ」  ミスを誤魔化す為にニタニタと笑いながら「すいません」と、真人に頭を下げてきた。  「はい……」  (レジくらいちゃんと打てよ)  和樹が買い物袋に商品を入れてると、バックヤードがある社員通用口から、お菓子の段ボール箱を手にした店長の竹ノ内が店内に入ってきた。  真人を見て満面の笑みを浮かべた。  「いらっしゃいませ! こんにちは、真人君」  「あ、こんにちは、店長」  いつも不思議に思うことがある。このコンビニは自宅から近いので頻繁に利用するが、店長に自分の名前を教えたことはない。なぜ、名前を知っているのだろうか……  「あしたはいい天気になるね。凄く綺麗な夕焼けだよ」  「はい」  レジカウンターに置かれた買い物袋を手に持ち、自動ドアに向かうと、竹ノ内は「いつもありがとうございます」と真人に言った。  「あ、はい」  交差点を渡って、アパートメントのポストをふと見ると、自宅の202号室のポストの蓋が半開きだった。  「あれ? 母さんが閉め忘れたのかな?」  蓋を閉めるついでに、郵便物を確認した。すると、封書が入っていた。  封書を手に取り、差出人を見てみた。  【BONANZA】  宛名  【内田真人様】  (オレ宛てだ。ボナンザってなんだっけ……たしか……)  英単語を頭に浮かべた。  (鉱脈とか、突然の幸運とか、なんだかギャンブルみたいなかんじ?)  封書をポケットに押し込んだ真人は、階段を上り、自宅玄関へと入った。リビングに足を踏み入れると、大好きなカレーの匂いが漂っていた。  「うわ!超旨そう!」  「旨そう、じゃなくて旨いのよ」  買い物袋から買ってきた商品を冷蔵庫に入れた。  「牛乳買ってきたからね」  「うん、ありがとう。もうすぐごはんだから間食しちゃダメよ」  「わかってるよ」ポテトチップスを手にした。「これは夜食のおともに」
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