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俺は、淹れたコーヒーをマグカップに移し、口に運びながら考えた。
本当に効果が無かったら全額返金してくれるんだろうな。
俺は、マウスのカーソルをカートに合わせてポチっと押していた。
何度この作業を繰り返したことか。俺は自虐の笑いが喉からこみ上げてきた。
まあ、どうせモテないし、たいした趣味も無いのでお金の使いどころなんてこれくらいか。
3日後、俺の手元にその育毛剤が届いた。意外と早いな。ふむふむ。洗髪後にこれを振り掛ければ良いのだな?そんなに面倒じゃないな。
「固形物が含まれている場合がありますが、成分の沈殿物なのでご心配はいりません」
手のひらに取ると確かに白っぽい沈殿物が見て取れた。
俺はたいして期待せず、頭にそれを振りかけてみた。
育毛剤というのはたいてい振りかけると、スーッとした爽快感があったりするのだが、その育毛剤はまったくそういう感覚は無かった。本当に効くのかよ。まったくかかった実感が無いんだけど。
俺は、物足りなさを覚えて、一日目は多めにかけた。
次の日の朝。俺はさほど期待もせずに、鏡を見た。まあ、一日で生えるわけないか。
そう思いながら、洗面所に背中を向けて、大きな手鏡をかざして合わせ鏡で頭のてっぺんを見た。
ん?何となく、黒くなってないか?まさか。一日でそんな効果があるわけない。俺は、恐る恐る、頭をくしゃくしゃと指で揉んでみた。髪の毛でなく、単なる汚れかもしれないからな。ところが、その黒くなった部分は落ちることはなかった。
え?マジで生えたのか?俺は恐る恐る地肌を触ってみた。何となくチクチクする感覚がある。
嘘だろう?本当に生えてきた!
久しぶりの感覚に俺は歓喜に打ち震えた。
そして、俺はいつものように、前髪を無理やり後ろに撫でつけると、会社へと向かった。
その日の俺はなんとなく上機嫌だった。
「佐古田さん、なんか今日はご機嫌ですね。何かいいことあったんですかぁ?」
総務部の天使、ユカリちゃん。今日も眩しいなあ。ユカリちゃんはこんな冴えないオジサンの俺にも、分け隔てなく優しく接してくれる。だが、その優しさがたまに俺を傷つけることもある。髪の毛の話題になると、無理に話題を変えようとしてくれたり、なるべくその手の話に触れなかったりしてくれるところが、ユカリちゃんの思いやりを感じるところなのだが、内心傷ついてしまう自分が情けない。
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