第1章

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 私は、手早く着替え、帽子を被ると、くしを持って、祖母の家に向かった。  帽子を取り、祖母に、その惨状を訴えた。 「ごめんね。あれは、私の友人のくしだったの」  祖母はくしを手に取ると、優しく撫でた。 「きっと、私が手放したから、怒ったのね」  穏やかに笑う祖母は、私の髪のことなど、どこ吹く風のようだった。 「それより、この髪!」  私は、長く伸びた髪を一房掴んで、見せる。 「もう大丈夫よ。このくしは、私が死ぬまで、持っているから」  祖母の言葉を聞き、すぐに、はさみで、髪を切った。  もう、髪が伸びることはなかった。 「友人は、自慢にしていたくらい長い髪だったんだけど、その髪で、首を絞めて、亡くなってしまったの」  祖母は、言わなくてもいいことまで、口にした。 「もちろん、事故だったんだけど」  そうは言ったが、聞きたい話ではなかった。  美容院に寄ってから、家に帰った。  その途中、もしかして、あのまま、放っておけば、自分の髪で首を絞められたかもしれないと思うとぞっとした。
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