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まあ、それもそのはず、そもそも去年創部されるまで野球部などなかった館森高校に球児がいるわけもない。
ましてや県有数の進学校である館森高校に本気で野球をやろうなんて人が現れるはずもないのだ。
野球と勉強の両立、出来ないとは言い切らないが、とても楽にできるようなものではないだろう。
俺は野球部が創部された今だって、どうせ同好会レベルだと思っているくらいだ。
三回表の七ツ森高校の攻撃の時点で16対 0 というスコアがそれを裏付けている。
とても見てられる試合じゃないな─と、俺はテレビから目を離し、再びペダルに足を乗せた。その瞬間─
『館森高校エース熊谷、148キロのストレートで七ツ森高校主将の竹中を三振にきってとりました!これでスリーアウトチェンジです!』
耳に入ったその実況に、俺は一度離した目を再びテレビに向けた。
148─だと?
弱小高校のエースにしては速すぎる。
そんな球を放るやつが、うちの学校にいたのか─?
そんな話、聞いたこともなかった。
しかし俺は、そんな驚きさえも無に帰してしまうほどの野球に対するトラウマがある。
これ以上観ても仕方が無いと考え、足早に自転車を漕ぎ始めた。
この心の中につっかえる謎のもやもやが何なのか、俺にはまだ分からなかった。
きっと、俺一人では気付けないものだろう。
しかしだからといって、どうすることもない。ただいつもどおり過ごすだけだ。
結局、館森高校の創部二年目の夏は県予選一回戦 26対2で五回コールド負けに終わった。
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