ある日私は、眼を拾った。

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 人形を抱え、悠然と夕暮れの町中を闊歩する私。  ふと気付けば、誰もが皆、自然と私を避けるように歩いていた。  やはり人形を抱える中年が物珍しいのだろう。すれ違う顔はどれも私に白い目を向け、近づくまいと一定の距離を置いていた。  きっと目が見えなかった時も、こうして私は避けられていたのだろう。目が見える事で、どうしても見たくもない物まで見えてくる。困ったものだ。  だが、もうすぐ。もうすぐ私はずっと見たかったものが見れる。  それは長年苦労をかけた、妻の顔だ。
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