地球も人間も、青かった。

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 もちろん、あの老人を助けたところで私には何のメリットも無い。むしろ私にも被害が及ぶリスクがある。  しかし、どちらを選んだとしても後の私の人生に影響は無い。いや、全く無いわけではない。このまま見て見ぬフリをして通り過ぎれば、一週間くらいはもやもやしたまま日常生活を送ることになるだろう。  ならば迷う必要はない。私は息を吸うと、周囲に聞こえるくらいの声を上げた。 「あ、お巡りさーん! 丁度良かった! 早く! こっちです! こっちこっち!」  そんな台詞を吐きながら人混みに向かってやや大袈裟に手招きをしてみせる。これでも大学時代は演劇サークルに入っていたんだ。私の演技力もまだまだ現役だな。これであの男も一目散に逃げて-- 「よお、おっさん。何かあったか?」  ……はおらず、私の元に迫って来た。 「そんな使い古された手に乗るかボケ」  嘘だろ。大抵の頭の弱い輩なら騙されて逃げるのに。  男はその迫力ある顔を近付け、私のネクタイを掴み乱暴に引き上げる。 「いい歳して正義感アピールか? この偽善者野郎」 「い、いや、本当に、いたんです。でも、気付かずどこかへ行ったみたいで--」  私の腹に男の拳が減り込む。一瞬、息が止まった。  痛さや苦しさ、そして後悔が私を襲い、思わず膝を着く。それでも男はネクタイを離さず、私を無理矢理立たせようとする。  この男の言う通りだ。一時の感情に任せ、むやみやたらに正義感を振るうもんじゃないな。  いい勉強になった。次からは私も通行人に徹するとしよう。  だから……だから今回だけは、見逃して--
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