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「そこ! 何をしている!」
再び現れた第三者。それは正真正銘、警官だった。
どうやら通行人の誰かが連れて来たらしい。
すると男は手の平を返したように慌てて逃げて行った。
「大丈夫ですか?」
「え、ええハイ」
警官は一応私を気遣うと、すぐに逃げた男の後を追った。
「いやはや災難じゃったのう」
次に声を掛けてきたのは、絡まれていた老人だった。
「ありがとうよ。かれこれ13回、あのような輩にぶつかり絡まれたがお主だけじゃよ。気にかけてくれたのは」
このご老人、相当目が悪いようだ。
「じゃあ、私はこれで……」
気恥ずかしくなり、老人に背を向け足早に立ち去ろうとするも、
「待ちなされ。お礼にこれをお主に托そう」
お礼という言葉に反応し、立ち止まる私の足。もちろん、断るつもりで老人の方に向き直した。
老人は背負っていた風呂敷包みを解き、中身を取り出していた。
それは、見るからに品格のある桐の箱だった。私は思わず「なんです、これ?」と尋ねてしまった。
「家に帰ってから開けて下され。壊れ物にて慎重に扱って下されよ」
老人はそれだけ言うと、断る間も無く箱を置いたまま立ち去ってしまった。
壊れ物という事は、壷とか皿とか、はたまた瀬戸物の置物か。このままここに放置しても通行の邪魔だ。仕方ない、回収しよう。
私は桐の箱を丁重に抱え、足早に帰路についた。
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