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「ごめん、誰にも言わないから」
「いや、今のどういうこと?」
笹原くんが、私の手首を掴む。
いつの間にか一々抵抗するのも面倒臭くなってしまった、その行為がやけに気に障るのに、どんなに振り払おうとしても離してくれないのは、やっぱりいつもの通りだった。
「……橋口先生と付き合ってたよね?」
「……俺がっ!? なんで、そんなふうになるの? 橋口、妊娠して休職しちゃったじゃん」
そうなのだ。橋口先生は、今月から休職してしまった。まだ、お腹は小さかったけれど、体調がすこぶる悪いらしい。
だから、地学部にも顔を出さなかったのかな。お蔭で自由にしていられたから、私は助かったけれど。
それに、笹原くんが起きている時間には、きっと来ていたんだろうし。
「……旦那さんがいても、別の人と付き合う人もいるよ」
ボソリと私が告げたら、笹原くんはいやーな顔をして、ジトッと私を見下ろした。
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