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「だったら、ここをきみ専用の図書室だと思えばいいさ。日中は好きなときに来て、好きなときに読めばいい。あくまで、その本はきみに貸与するだけだよ。そうしよう」
「よい考えです。閉館時間は?」
「ぼくが夜勤に出かけるまで。――いや、留守番をしてくれるなら朝までいてもいいよ」どうせ誰も来ないけれど。
「それはとても魅力的ですね」
「そうそう、ごはんはそこだよ」
私は冷蔵庫を指し示す。
ピイはそこに向かって駆けると、その上部、冷凍室のドアをひらく。ひしめく弁当を輝いた瞳で眺めてから、それぞれを手にとって見比べる。
「これにします」
ピイが選んだのは牛焼肉重だった。午前中によくそんなくどいものを食べるなあと思う。若いからかな。私はもう胃もたれを懸念しなければならない。
電子レンジで温める。ピイは乱雑な床の上に空間を見つけて、そこにかもめ座りしている。私は畳んでいる布団を指し示す。
「その上に座っていいよ。うち、座布団ないし」
「ではそうさせてもらいます」
畳んだ布団の上に座ったピイはふたたびオカリナを手にしていた。
「吹いても?」
「どうぞ」
微笑んで、小さく息を吸う音。やがて流れてきたのは聴いたことのないメロディーだった。
ゆったりと海面が揺れて波立ち波紋を広げるように、同じ旋律を繰り返していて、その旋律は徐々に音量を弱めていく。完全に音が消えたとき、私の頭の中には静謐に凪いだ大海があった。
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