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「ご清聴ありがとうございます。『ないしょばなしの曲』でした」
「ないしょばなし?」
「ないしょばなしに耳を傾けている感じがしませんでしたか」
「揺らぐ海面が静まっていくような想像はしたけれど……」
「じゃあ、空のないしょばなしに海が耳を傾けたんですね。そんな曲です」
「そうなんだ」私は答えながらレンジから焼肉重を取り出して、割り箸といっしょに渡した。「熱いから気をつけて」
「はい、いただきます」
ピイはとても上手に箸を使った。背筋を伸ばした綺麗な姿勢で、そこには食に対する敬意めいたものが窺えた。
「ごちそうさまでした」
気づけば、ペーパーおしぼりで口を拭っている。私は食事の一部始終を眺めていた。
不思議と、上質な娯楽作品に触れたような、充足した気持ちを抱いている。ピイは虚構の物語のように完成されているのだろう。あえて私は彼女の抱える現実に踏み込もうとする。
「ところできみの(ぴー)」オカリナの音色。「にぼくの(ぴー)を(ぴー)て、――ちょっと待っ(ぴー)」
ピイはオカリナをくわえたまま、目を点にして首をかしげる。
「やめてくれよピイ。そのぴーってのやめてくれよ。まるでぼくが放送禁止用語でもしゃべっているみたいなありさまだ」
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