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この子のいろいろな表情を見てみたいと思うから、もうすこしだけ生きていよう。
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あれからピイは私の部屋に入り浸っている。食費は廃棄のコンビニ弁当のおかげでだいぶ節約になってはいるが、子供に添加物が満載の食品ばかりを与えるのはどうかと思う。たまに思い出したかのように野菜炒めやサラダをたらふく食べさせているものの焼け石に水な気がしてならない。
ピイの衣類については本人がどこからともなく予備を出してきた。はじめに着ていたのとまったく同じ、ロングTシャツにショートパンツであり、ピン芸人さながらの衣装に対するこだわりが窺えた。
――尿意に昼寝から目覚める。
夜勤上がりからこっち眠っていた私だが、頭を掻きながら壁掛けの丸い時計を見る。まだ午前中だった。のろのろと起き上がり寝ぼけながらユニットバスの戸を開けるとピイが入浴中だった。
乳白色に濁った湯に肩まで浸かって、長く白い髪は湯の色に紛れている。ピイは鼻歌をこぼしながら空中に指を走らせていて、私を認めるやそれが停止した。
「わあ、びっくりするじゃないですか」
「すまない、トイレだ」
「ああもう、せっかく新曲が浮かんでいたのに……」
驚きから一転していじけたように眉を寄せる。書きかけだった指先は湯船に沈めて、そのまま口もとまで沈んだ。息を吐いてぶくぶくと水面にあぶくを散らす。
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