空を渡る点P

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 ・  夜、ふとした瞬間に窓ガラスに映る自分の姿を見る。見たくもないのに目に入る。  懶惰を貪り、性根ともどもこの肉体は醜く肥え太っていて、それに付属する顔面は髭が濃いのに眉は妙に薄い。額には吹き出物が散在し、口の端は乾燥して白くささくれ立っていた。髪は肩に届きそうなまで伸び、その色は黒だが艶とは無縁にくすんでいる。染めたりしていないのにダメージを蓄積していて、使い古したモップのようだ。そして、ガラスに映る、死んだ片口鰯のそれのような目が私を見ていた。  これは面白半分にネットで晒されそうな風体だ。ゆえに電車には乗れない。休日に街を歩くなんてもってのほかだ。そうだ、膨れ上がった自意識に身動きが取れないでいるのだ。  四畳半の安普請アパートは日当たり最悪で、いつもじめじめしている。以前は私の心情もじめじめしていたが、とある異物のおかげで最近はましになりつつある。この調子でこのアパートの一室のじめじめも取り払ってくれるとありがたい。  その異物は異彩を放って、いまもここにいる。三か月前に出会った異物であるところのピイは畳んだ布団をソファ代わりに腰かけている。文庫本を手に、まるで学術論文を紐解いて納得したかのように大仰に頷く。
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