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――滝の音に紛れて聴こえてくる音があった。
ほんの十メートル先に、真っ白な髪の少女がいた。崖のへりに立って、オカリナを吹いていた。わずか三十秒ほどで演奏は終わる。静かにこちらに歩いてくるが私を一顧だにしない。私を通り過ぎて停止すると今度は屈伸運動をする。少女は振り返ると崖の向こうの空間を見据える。オカリナを握りしめたまま、大きく腕を振って走り――悠長に眺めている場合ではない!
私はその背に飛びかかった。
「何をしているんだ!」
たやすく捕らえてともに地面に転がる。腕の中の少女の身体は、人間離れして、ふわふわだった。
「なんなんですかもう、ちょっと飛ぼうとしていたのに……わたしの母性に当てられたんですか?」
「微塵も母性を感じないよ。というか、きみは何を……?」
「ちょっと飛ぼうとしていただけですよ」
「いや、死ぬよ」
ロングTシャツにショートパンツで崖から飛んだら、死ぬ。
「死にません」
その声は自信に満ちていた。そのせいだろう、私はまことにばかばかしい質問をした。
「根拠は?」
返事はある。
「わたしは空童(くっぱ)ですから」
意味はわからなかったが、少女は、異国の言語で誇らしいものを口にした現地人のような表情をしていた。
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