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「放してくれませんか」
私は抱き捕らえていた腕を解き、慎重に言う。
「きみがなんであるかは知らないけど、」
「空童です」
「空は飛べないよ。目の前で死なれるのはいやだ」
「死なないのに……。ところであなたはこんなところに何をしに来たんですか?」
目的を思い出す。
「じつはぼく、死にに来たんだ――」
そうして私は、私の中に層をなす絶望のすべてを開陳した。
少女は黙ってそれを聞いて、
「そんなことより、何か食べ物を持っていませんか?」
聞いて、流したようだった。
「え……、あ、ここにはないけど家になら、」
「でしたら、お邪魔してもいいでしょうか」
しがないコンビニ店員であるところの私は廃棄をこっそりと持ち帰っている。本当はやってはいけないことだが、見つかったところでこれ以上肩身が狭くなるとは思えない。すでに限界まで狭くなっているのだ。勤め先のコンビニに足を踏み入れた瞬間に、私はいつも天敵を見つけたふくろうのように身を縮めている。
そこまで肩身が狭くなっても、ここを辞めようとは思えなかった。なぜなら私は無能だからであり、新しい職場に移って、必死で覚えたコンビニ業務の知識が無に帰するのを危惧しているのである。コンビニならどこも同じという向きもあろう、しかし、店舗ごとにこまかい差異があるのだ。そして、この歳になって業務中に注意をされたくはないのだった。
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