空を渡る点P

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 道中、私は少女に名を問う。名前はない、と少女は答えた。  私は少女にピイと名づける。ピイは私にキュウと名づけた。 『わたしがピイならあなたはキュウですね』とのことだった。数学だろうか。私は特段、いやだと感じなかった。  ついた自室。四畳半に申しわけていどの台所とユニットバス。本棚のひとつもなく、衣装ケースには乱雑に衣類を押し込んでいた。 「お邪魔しますね」 「ああ、散らかっているけどね」  ピイは探検家のような足取りで興味深そうに歩を進め、やがて積み重なっている本のひとつを手に取る。勢いで買った高尚そうな純文学だが私は三行で投げた。ピイはその場に座るとオカリナを放り出し、両手でそれをひらく。  読んでいる? 細い指がページを繰る。読んでいる! 『猖獗』やら『畢竟』やら読めないわ、意味がわからないわで私の心を手折った小説を児童文学でも読んでいるかのような表情で読み進めている。ピイは微笑んだ。  その表情に、私もまた笑みをこぼす。  ピイが視線を上げてから、頭を下げた。 「あっ、すみません、わたしったら、お腹が空いたからお邪魔したのに、読書をしている場合ではないですね」 「いや、いいんだ、気に入ったのならあげるよ。ぼくは読まないから」読めないから。 「さすがにそれは……」
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