空の下――序章

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 書架と書架の間に、 女子生徒がひとり、床に座り込んでいた。 景から見れば横向きの彼女は、 肩までの黒髪を風にさらし、少し上の方を向いていた。 だが書架の方を向いてはいるものの、 彼女はぼんやりとして何も見ていないようだった。 景の視線にもまるで気が付いていない。  そこに人がいたことに驚いた景は、 今まで夢中になっていた本を忘れた。  周りの注意も気にせず、 少女は声もなくただ泣いている。 自分でもわからない悲しみと切なさに泣きながら、 溢れて止まらないその涙をも、 彼女は他人事のように感じているみたいだった。 その自分の気持ちに気付いていない涙が より一層悲哀に満ちていて、 それが何より景の心を打った。 (自分が誰か、それすらも見失っているような……)  彼女は何を見ているのだろう。  景は目を離せなかった。
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