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これは、ある雨降りの夜のことだった。
「クレイグ、お前には随分お世話になったねぇ。」
歳老いた婦人が力ない声で言う。
側には、老婦人に買われこの家に身を置く一体の介護用アンドロイド。名を、クレイグという。
「主人、あまり無理して喋るものではない。脈拍が弱くなっている。」
「ふふ、いいのよ、もう。いいの。」
いくつもの雨粒が流れ落ちる窓に目をやりながら、老婦人は言った。
「何がいいのだ主人、言ってくれねばわからない。」
「貴方がいつも通りで、安心したわ。ねぇクレイグ、ありがとう。」
そんな時だった。〝コンコンコンッ!!〟と玄関から少しばかり強めなノックの音が聞こえた。
「おや、こんな時間に客人かい?クレイグ、行ってきておくれ」
「承知した。」
クレイグが玄関の扉を開けるが人影らしきものは見当たらなかった。
だがクレイグの足下に、開いたままの傘が一つ。その傘の下にももう一つ、置き去りにされたであろうものがあった。
クレイグは黙って拾い上げ、家の中へ、老婦人の元へと戻る。
「主人、人の赤子だ。玄関に・・・主人?」
老婦人からの返事は、無かった。
それが、私とクレイグの最初の出会いだったという。
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