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ある日、俺は不思議な懐中時計を拾った。
腕時計が主流となっている今、こういった高級感と渋さを併せ持った懐中時計はとても魅力的に見えたが、わざわざ買うまでにはいかない自分にとって、拾い物でもそのままリリースしてしまうのは躊躇われた。
故に、俺はこうして懐中時計を拾ってしまった訳だが、何度見てもこの時計、針が秒針しか無く、本来は六十秒を刻んでくれるはずのその秒針ですら十二時の位置からピクリとも動いてくれない。
「なんだ......壊れてるのか」
外装に傷などは見られない為に非常に残念でならない。
修理に出せばまた使えるようになるだろうという結論に至り、俺は捨てたりせずその懐中時計を今だけはせめてアクセサリー気分で身に着けようと、金色に輝くチェーンを首に掛け、時計を首からぶら下げて家路に着くために歩き出した。
数メートル程歩いた頃、ふと首元からカチッという機械音がした為に時計を見ると、さっきまでまったく音沙汰の無かった秒針が1秒2秒と時を刻みだした。
「お? なんだ動くじゃん」
などと安堵の息を漏らしたのもつかの間、前方からいつも俺を馬鹿にするクラスのいじめグループ三人組がこちらに向かって歩いて来ているのに気が付いた。
やばい......。 どうしよう。
道は一直線辺りは塀に囲まれた住宅街、隠れるような場所は一つも無かった。
こうなりゃもう、気付かないフリをしてやり過ごすしかない。 相手も話に夢中になってるようだし、こっちに気付かないことに賭けてみよう。
俺は出来る限り存在を消せるよう、首から下げた懐中時計を眺めるフリをして横を通り過ぎようとする。
時計の秒針は丁度動き出してから一分。 今まさに六十秒を刻むという所で......。
「あれれー? クラスメイトに挨拶もせずに通り過ぎようとする友達がいるなー?」
ば、バレテる―――。
その後、難癖付けられた挙句に懐中時計に目を付けられ、格好つけてんじゃねぇだのなんだので何度もどつかれた。
一度懐中時計をもっていかれそうになったが、また秒針が動いていなかったらしく、壊れ物がお似合いだという台詞を吐いて、懐中時計は持っていかれずにそのままいじめグループは去って行った。
はぁ......。 運が悪い。
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