日常 その1

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----ボオオオオオオオオオオオオオオ!  この世のものとは思えない声がこだまする。その声は大地を揺るがし、木々を揺らした。  声の主、その姿はあまりにも大きかった。周囲の山々にも匹敵するほどに。  そのあまりに巨大な姿故に、被害も甚大であった。この者によって、幾つ村が町が廃墟と化したことか。 「そろそろか」  錫杖を手にした男が編み笠を持ち上げ、その者を見て呟く。  長らく苦しい戦いを強いられた相手であったが、それももう終わりのようだ。すでに仕掛けは施してある。 「注連縄(しめなわ)を張れ」  男の声を合図に荒男達が地面に隠していた注連縄を一斉に引いた。ギシギシと編まれた注連縄が音を立てて持ち上がる。その全長は数百メートルに及んだ。注連縄は単に藁を編み作られたものではなかった。幾重にも呪を与えた特別な注連縄であった。相手は『逢魔』。生の世界に存在する者達にとって、敵と称すべき者。注連縄には、逢魔の動きを封じるよう力が込められていた。 ----ブオオオオオオオオオオオオオオオ!  逢魔は巨大な手で周囲を囲む注連縄を振り払おうとしたが、触れた瞬間、電気でも走ったかのように手を弾かれた。 「やめておけ。その縄は、我が細辻家の者達が命を賭した力が込められている。生半可な逢魔では消滅してしまうほどだ。いかに、お前であっても・・・」  男は言葉が通じるかどうか分からない相手に言う。  命を賭した。それは、文字通りであり注連縄を作り上げるためだけに何十、何百という細辻家の者と門下が命を落とした。それを簡単に破られる訳にはいかなかった。だが、 「なに!」  男は目を見開く。一度は手を弾かれた逢魔は再び手を伸ばすと、今度はしっかりと注連縄を掴んだではないか。身体を引き裂くような痛みが腕を伝わるも逢魔は痛がる様子も見せない。 「これで、ダメだというのか」  男は表情を曇らせた。何百という命を賭したとしても、逢魔を倒すことができない。これはもう、化け物の領域であった。荒男達は必死になって注連縄を押さえようとしていたが、力が違いすぎる。 「ほ、細辻様!まだでございますか!」  全身から大汗を流しつつ荒男は細辻家の男に言う。いつまで、自分達は注連縄を押さえ続けていればいいのかを。
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