その3

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 平成の始まり。それは、夕海高校オカルトクラブにとって、記念すべき設立の年でもあった。三階に創設されたオカルトクラブの部室。部員は部長も兼務する優香一人だけであるが、いずれは多くの同志に入ってもらうことを期待していた。だが、正式に認められたとはいえ、まだまだ知名度は低い部活動であることに違いはなかった。部長を優香がやっているということで、学校で話題にはなっていたが、オカルトクラブ、そのものの具体的な活動内容が決まっておらず、っそれが部員が集まり難い要因の一つになっていた。そもそも、学校の部活動とは学業、学校に役立つことを前提としていた。趣味だけでは、部活動として認められない。オカルトクラブは特例中の特例の部活動なのだ。  優香は用意された部室で一人、部員増員の為の策を練りつつ、これまでのオカルトに関する研究結果を発表すべく、作業に追われていた。数日前の朝日トンネル付近での心霊写真を撮ることに成功こそしたが、それは顧問になった輝葉との密約で公にすることはできない。事故現場で目撃された幽霊。宣伝効果に打ってつけだが仕方ないことだ。  他の話題で、公に発表できるものを作成している最中、部室にやってきたのは矢子であった。彼女は部室にやってくるなり優香に言った。 「矢子先生。何ですか?いきなり、夕海祭に行かないかって」  突然の矢子の誘いに優香は驚き、作業中だった手を止めてしまった。いきなり、やってきたかと思えば、今度、行われる大夕海祭のことを言い出す。 「建前よ。建前。明日、夕海祭があるでしょう。その誘いを建前に、諏訪さんが部長をすることになったオカルトクラブの様子を見にきたのよ」  教員なのだか、そんな建前がなくてもいいと優香は思った。そもそも、部室に入るなり勝手に外付けの換気扇を回して、タバコをふかしている。生徒の前だというのに、少しは風紀を気遣おうとしないのだろうか。 「矢子先生。職員会議はどうしたのですか?」  優香は袋詰めされた砕かれたコーヒー豆をコーヒーサイフォンに入れ、電気ポットで沸かしたお湯を掛ける。電気ポットは昔、自宅で使っていたもので保温機能が壊れて使えないが湯を沸かすことには使えるので、部室で使わせてもらってた。
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