その3

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「職員会議といっても、教師の集まりよ。養護教諭の私は関係ないわ。保健室にいてもヒマだから、諏訪さんの様子でも見にきたの」  優香は呆れた。部活動を見にきてもらえるのはいいけれど、態度といい。とても、教職員に就いている人とは思えなかった。 「養護教諭だって、大事な教員なんですよ。それを、ヒマという理由だけで」  優香は半ば呆れた様子で、コーヒーを矢子に差し出した。砂糖やミルクは使うか分からないが一応、一緒に出してみた。 「悪いわね。コーヒーなんか出してもらちゃって」  矢子は砂糖やミルクを使わないブラック派らしく出されたコーヒーをスプーンでかき混ぜ、少し冷ましてから口にする。 「あら?結構、おいしいコーヒーね」  コーヒーを一口飲んで矢子は言う。コーヒー特有の苦みと香りはあるものの、強くはなく飲みやすかった。一口啜る度に、舌の味蕾を覚醒させ味が純に変化する。よくコーヒーを飲むと眠気が覚めるというが、まさにこれは、そう呼ばれるのに相応しい味と香りがある。 「諏訪さん、コーヒー入れるの上手かったの」 「いえ。豆がいいのでしょう。知り合いの喫茶店のマスターから分けてもらった、コーヒー豆ですから」  優香が入れたコーヒーは喫茶店『時忘れ』の味に劣るが、豆は前にカーフェから分けてもらったものであった。カーフェが、喫茶店を開店した当初、客から教えてもらった豆だそうだ。それを焦がしすぎず、尚かつ、生臭さを取り除き、均等に煎られた。製法がいいので、素人の優香がつくっても、市販のコーヒーよりは美味しいものができる。 「そうなの。味も結構いいし、今度、その知り合い喫茶店ってのを紹介してもらえるかしら」 「いいですよ。カーフェもお客さんが増えれば喜ぶと思いますし」 「ありがとうね」  矢子はクスリと笑うと、コーヒーをもう一度、啜った。実に優雅な放課後である。時忘れから譲ってもらったコーヒー豆のおかげかもしれないが、コーヒーを啜っていると時という感覚から解放され、何もかも自由になれた、そんな気にさせられる。
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