その3

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 三階の隅にある教室というのもあるが、静かで外で部活動をしている生徒の威勢ある掛け声だけが、部室に聞こえていた。カーフェの店で出しているコーヒーのせいか、香りが時間を忘れさせてくれた。ゆったりとした時間が部室に流れていた。 「さて、そろそろ、本題に入ろうかしら」  コーヒーを半分ぐらい飲んだ矢子はカップをソーサーに置いて言う。 「本題ですか?」 「言ったでしょう。夕海祭の誘いは建前だって」 「はい。でも、それって、部活動を見に来たのでは」 「それもあるけど、一番の理由は諏訪さんがオカルトクラブを正式に立ち上げたから依頼しにきたのよ」  矢子に“依頼”と言われ、コーヒーを啜っていた優香はカップから口を離した。 「先生が生徒に依頼ですか?」 「ええ。オカルトクラブの部長である諏訪さんに打ってつけの」  矢子は微笑みながら言う。優香にしてみれば意外だなと思った。教師が生徒に手伝いを頼むのは珍しいことではない。高校生なのだから、むしろ、色々と大人の仕事に慣れてもらうことも必要なのだ。だが、矢子は大人としての“仕事”ではなく、オカルトクラブとしての“仕事”を依頼しに来たのだ。 「今更、こんなことを言うのも何だけど、諏訪さんは幽霊の存在を信じている?」  矢子はストレートな質問をしてきた。幽霊の存在を信じているかと。答えは」「YES」だ。これまで、あやふやでしかなかった一概に“幽霊”と呼ばれる存在がいることを、優香は知った。何より、ここの顧問である輝葉の妻は、その幽霊である。これだけのことを知って、幽霊はいないと否定することはできない。 「もちろん、信じてますよ。この幽霊ですよね」  優香は確認するように両手をダランと前に垂らしてみせた。柳の下にでも現れそうな典型的な幽霊の姿である。 「その通り。実はわね、明日、行われる大夕海祭はいつもとは違うことが起こるそうなのよ」
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