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「いつもと違うこと?街の閉鎖ですか」
夕海町で行われる大夕海祭は体験したことがない優香達の間でも、有名な奇祭であることは知っていた。毎年行われる一般的な祭とは違い、大夕海祭の時は夕海町の一部を閉鎖してしまうのだ。どうして、そのようなことをするのか、優香は知らなかった。今から約二十五年前に行われた大夕海祭にも多くの警察官が導入され街から一時的に人が追い出されたという。どうして、そこまでして人を遠ざけているのか、その理由を知る者はほとんどいない。
「確か、今回も閉鎖されるのでしたよね」
優香は足下に置いた自分のトランクケースを漁って、中から新聞のチラシに入っていた夕海町閉鎖のお知らせの紙を出す。今回も前回と朱月川を中心とした中心街の北区と南区。両方の一部で約二キロの範囲が立ち入りが禁止される。数時間だけの事とはいえ、二十世紀の世紀末に、この奇妙な祭りをしているところも珍しい。
「街の閉鎖も奇妙だけど、私が知りたいのは大夕海祭での噂です」
「噂?」
「大夕海祭が開催される時は、必ずといって良い程に夕海町に幽霊が出るそうなのです」
「幽霊?」
優香は驚いた。そんな話、聞いたことがないからだ。オカルトクラブを名乗っていたが、夕海町の名物でもある大夕海祭に幽霊が出るという話は初耳であった。
「矢子先生は、どこから、そのような話を」
「ちょっと、知り合いにフリーのカメラマンがいてね。その人が言うには、夕海町で行われる大夕海祭には幽霊が出るそうなのです」
「聞いたことありません」
「私も始めは耳を疑ったわ。いえ、それ以前に幽霊がいること事態が信じられなかった。人は死んだら天国か地獄に行く。そう言うものだと思っていたから」
正確には処世に向かうことになる。そこが、如何なる世界であるかは優香は知らない。生者が見ることも触れることもできない、こことは全く違う世界に死者は向かうことになる。
「それで、矢子先生は私にその幽霊でも写真か何かに収めてほしいのですか」
「それだったら、自分でもするわ。おかしな依頼と思われるかもしれないけど、諏訪さんには捜して欲しい幽霊がいるのよ」
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