その3

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 学校にいた全ての生徒、教員が汽笛のような音を聞いたが、それは単に、停泊してた船の汽笛だと思い、少し気にしただけですぐに忘れた。しかし、努には分かった。この汽笛のような音は船の汽笛ではないことに。  そして、全身の血が凍りつくような感覚を味わった。  本来、逢魔の狭間で起きた事象は形として現世に影響を与えるだけに留まる。だが、希に直接、逢魔の狭間だけでなく現世や処世に姿を影のように朧気ではなくハッキリした状態で現せる逢魔もいた。弱い逢魔や幽霊と称される死者は、そのようなことはできない。ただ、うっすらと人が認知できるぐらいだ。  現世に時間帯を問わず誰にでも認知できる姿で現れる逢魔は、その実力は桁違いと言われている。努はまだ、そこまで強い逢魔に出会ったことはなかった。明日の大夕海祭で相手をすることになるであろう、逢魔は封印が少し解かれかけた状態であれだけの奇声を発してた。もし、その封印が完全に解かれたら、どれだけの被害をもたらすというのか。  公の記録に残っているのでも、百年以上前に夕海町が火災に見舞われるという災害があった。今でも、それは火の不始末による災害と思われているようだが、実際は、その時代、封印が解かれ動き出した例の逢魔によって町が被害を受けた。  油断していたのだろう。四半世紀前後に封印するというのを繰り返していたからこそ、今回も事務的な処理に終わるはずだと、封印が解かれた逢魔は圧倒的な力により町に災害をもたらした。 『二年A組の辻----辻努。生徒指導室に来なさい。繰り返します。辻努、生徒指導室に来なさい』  逢魔の出現場所と行動範囲の確認をしている中、校内放送が努を呼びつけた。急な呼び出しに努は顰めっ面になる。急な呼び出しを受けたからではない。“生徒指導室”に来るようにと言われたからだ。努は生徒指導室に、良い思い出がなかった。二週間ほど前、生徒指導室に優香とともに呼び出された彼を襲ったのは、新任教師の輝葉。誤解は解け、和解したものの強襲された時のことを覚え根にもっていた。
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