その3

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「あれは、汽笛ではありません。逢魔の声です。大昔、朱月川に細辻家によって封印された逢魔の」  細辻家の当主、細辻霧助から努は話を聞かされていた。  今となっては、どのような経緯で逢魔が朱月川に封印されたのか。正確な話は残されていなかった。唯一、伝わっていることは、朱月川に封じられた災いを二度と外に出してはいけないということだけ。 「あの汽笛が逢魔の声だというのか」 「そうです。封印されているのに、あれだけ大きな声を上げる。二十数年ぶりに力を蓄えて、封印を解こうとしています」 「あの逢魔は四半世紀ごとに復活しようとしているのか」 「文献によると、そうなります。輝葉先生の家には、そのことは伝わっていないのですか?」 「生憎だが、私の出身は関西なんだ」  輝葉は政府に雇われた逢魔を狩る一族である。世界中に逢魔を狩る者がいるのならば、日本全国、あちこちに居てもおかしくない。関西出身の人がいても何の不思議もなかった。むしろ、逢魔を狩る者として有名な事例を挙げると、すれば室町時代に京に住居を構えていた陰陽師の一族が有名である。  関西出身の輝葉は朱月川に封印された逢魔については詳しいことを知らなかった。 「政府からの報告で、夕海町には大昔から封印されている逢魔があいるということぐらいしか聞いていない。しかし、封印されて尚、あれだけの声を上げられるとは」  輝葉も汽笛の正体が逢魔の叫び声だと知ると、さすがに深刻そうな顔をした。声だけとはいえ、封印が解けたら、どれだけの災害をもたらすというのか。 「元々、大夕海祭はその逢魔を封印する為に行われていた祭りなんです」  古来より儀式というのは、公事、神事、仏事の類と思われていた。その規模が大きければ大きいほどに、理由を知らない第三者からしてみれば、不思議な行事に見えてしまうのだろう。  朱月川を利用した封印であるのならば、それは規模が大きく、逢魔を封印しているようには見えないだろう。 「なるほど、それで、夕海祭に決まった開催日がないのだな」
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