その3

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「はい。四半世紀前後に封印が弱くなることぐらいしか分かっておらず、今年がその封印が弱まる年なのです」  四半世紀前後に行われる大夕海祭。住民への被害を最小にする為に朱月川を中心とした中心街は全て立ち入りが禁止される。以前の大災害を経験したからこそ、身についた教訓なのだろう。表向きは祭りを演じつつ、裏では空っぽになった中心街で逢魔を封印することに徹する。 「しかし、その逢魔は倒すことはできないのか」  努から話を聞いてた輝葉は疑問を口にする。その逢魔の危険性は分かる。一度、封印が解かれただけで町を殲滅しかねないほどの猛威を振るった。現世に直接、関与できる存在となるのならば尚のこと。それが、どれほどの実力を持っているのか、理解はできる。だから、不思議なのだ。仮にも、相手は逢魔。逢魔でならば、後方支援や守りが専門の細辻家で対処できずとも、攻撃が専門である辻家ならば倒せないのか。ましてや、時代は大昔とは違い進んでいる。実力も存分に蓄えられているはずだ。 「無理です。あの逢魔は、普通とは桁違いですから。いや、次元が違うと言った方がいい」 「次元が違う?」 「輝葉先生は、そもそも、どうして逢魔の狭間がずっと、夕暮れ時なのか知ってますか?」 「ん?」  努が奇妙な質問を輝葉に投げかけた。  逢魔の狭間は、時間帯を問わず、常に夕暮れ時。輝葉はその理由を深くは考えていなかった。昼が象徴の生者が在る現世と夜が象徴の死者が在る処世。その狭間にあるから、逢魔の狭間は夕暮れ時なのだとばかり思っていた。 「処世にも、一応、昼と夜は存在するらしいです。そこだけ、何ですよ。時間帯を問わず、ずっと夕暮れ時のまま、時間が止まっている場所は」 「そんなバカな・・・!」  深く考えていなかっただけに、逢魔の狭間がおかしいことを指摘された輝葉は声を上げてしまう。現世も処世も昼や夜があるというのに、逢魔の狭間だけが夕暮れ時のままで、時間が止まっている。それこそ、もっとも奇異なことだ。
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