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努はそれを奇異とは思っていなかった。それというのも、理由が分かっていたからだ。理由が分かっているからこそ、朱月川に封印されている逢魔の恐ろしさを、細辻家と同じように十二分に理解できてきた。
「逢魔の狭間。ここを夕暮れ時に止めてしまったのは、今も朱月川に封印されている逢魔の仕業なんです」
「逢魔がここを夕暮れ時のままにしたというのか」
「大昔の文献に残されていました。それまでは、逢魔の狭間も現世、処世と一緒に普通に朝昼晩が存在してました。それを、あの逢魔『夕刻ノ魔』が夕暮れ時のままで止めてしまった」
夕刻ノ魔。それは、正しい名前ではなかった。そもそも、そいつには名前というのがなかった。大昔に現れた逢魔で、その力を持って逢魔の狭間を夕刻に止めてしまった。その圧倒的な力に、当時の細辻家の者達は太刀打ちすることができず、封印という手段を選択した。それしか、夕刻ノ魔を暴れないようにする手だてがなかった。
「以前の大火災も、封印の大半が解けた夕刻ノ魔による仕業と言われています。あれは、俺達が知っている逢魔とは違う。恐らく、世界中の軍隊でも招集しない限り、倒すことはできないでしょう」
大袈裟なではなかった。努は本当に、夕刻ノ魔。その逢魔を倒すには、世界中の軍隊を招集しなければ倒せないと思っていた。夕刻ノ魔を封じる力は細辻家でも最高位のモノである。当然、四半世紀事に技術は磨かれ封印は強くなってきている。しかし、それでも夕刻ノ魔は律儀に四半世紀前後に必ずといって良い程に封印を破り復活しようとするのだ。それは、つまり、夕刻ノ魔は封印されても尚、その力を保ち続けていることになる。いや、保ち続けているだけはすまない、むしろ、力を増幅しなければ封印は破ることはできない。
封印されても力をつけ続ける夕刻ノ魔。ある意味、逢魔の中では異質な存在なのかもしれない。
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