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「でも、それは夜ですよね。七時頃から」
「そうなるな」
多少時間に誤差があるが、夕刻ノ魔が本格的に動き出すのは夜であった。七時から封印が施されるまでの約一時間を見張ってなくてはならない。中心街は混乱を避ける為に夕暮れ時の五時頃から全面閉鎖され立ち入ることができなくなるはずだ。
静佳は封印をし直す、七時少し前から中心街で待機するつもりでいた。それを聞くと、夢葉はニヤリと意味ありげな笑顔を浮かべた。
何か企みを込めたような笑顔に静佳は一抹の不安を感じた。
「夢葉、また何か企んでいるのか?」
「いえ。何も兄様。夕刻ノ魔を封印するのも大事ですが、お祭りでもあるのですから。楽しみませんか?」
「楽しむ?祭りをか」
「そうですよ。大人になったら、祭りを楽しめなくなります。今の内だけですよ!楽しめるのは!クレープ、綿アメ、ヨーヨー釣り、射的、金魚すくい、おみくじなどなど、祭りの風物詩ですよ!」
ましてやは今の時期は前回とは違い、八月。まさに、祭りのシーズンでもあった。逢魔との戦いばかりに精神を使ってばかりでは、せっかくの青春を無駄にしてしまうのは、勿体ないと夢葉は言いたいようだ。
「しかし、相手は夕刻ノ魔。油断をしたら」
「気を張りつめて決戦前に擦り切れたら意味がないですよ」
「・・う・・うう」
夢葉の説得に静佳は唸る。妹の言い分も一理あるから。あまり気を張りつめすぎて本番になると上手く動けないという実例はある。実際、静佳と同じ剣道部である鞍馬は練習や模擬試合は強いのだが、いざ、本番になると空回りして実力を出し切れず、顧問も勿体ない人材だと言っていた。
何より、夢葉の気迫が恐ろしかった。彼女は食卓のテーブルの両手を乗せ身を乗りだし、静佳に少しずつ詰め寄りつつあった。妹の企みは見抜けないが、彼女は意地でも静佳を大夕海祭の祭りに連れ出そうとしている。
「兄様!」
夢葉はテーブルの隅に膝をかけ、今にもテーブルを跨いで静佳に最接近しそうだった。
「わ、分かった。明日、七時近くまで非常事態が起こるまでは祭りに参加しているから」
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