その4

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「よろしいです」  夢葉はニッコリ笑うと引き下がり椅子に座り直す。こういう、強引な所を見ると夢葉も輝葉の性格の一部を引き継いでいるなと改めて静佳は思うのであった。  夢葉は自分が膝をかけたテーブルの端や手を乗せた場所を布巾で拭くと、さっさと食事を済ませる。夢葉の駆け足ぎみの食事を見てた静佳は、 (夢葉のヤツ、何をそんなに慌てているんだ)と、様子がおかしい夢葉を訝るように見ていた。 「兄様。私は部屋に戻って勉強していますので」 「宿題か?」 「まあ、そんなものです。大事な宿題です」  夢葉はそう言うと、食器を下げてリビングを出ていった。  いったい、夢葉は何を企んでいるのか。静佳は警戒していたが、明日は夕刻ノ魔との戦いである。辻利家の者であるのならば、事情も知っているし、あまり変なことはしてこないだろうと思った。年齢的なことを考慮するのならば、きっと、自分から夏祭りで遊ぶ金をせがむゆつもりなのだろう。もちろん、せがまれたら少しは小遣いとして出してやってもいい。交代制であるとはいえ、お互いに家事を分担しているのだ。兄として、少しは妹に小遣いをやったところで問題はないはずだ。  一方、自分の部屋に戻った夢葉はドアの隙間からリビングで静佳が食事をしているのを確認するとドアを締め、鍵もかけた。鍵は最近、購入したもので静佳も鍵が掛かっていることには気付いていない。思春期だから鍵を取り付けたのではなく、静佳に部屋で何をやっているのか。それを悟られないようにする為だった。  部屋に戻って夢葉は勉強机に座ると、簡単な鍵が掛かった引き出しからノートを取りだした。不吉さを感じさせる真っ黒なノートではなく、桃色の可愛らしいデザインが施されたノートである。表題はあえてつけていなかった。表題をつけると、中身を見なくとも察しが静佳に分かってしまうかもしれないからだ。  夢葉がノートを開くと、彼女の微妙なイラストとメモ書きが書かれていた。夢葉はペンケースからシャープペンを取りだすと、ノートの続きを書き始めた。その一方で、左手では器用に先程、届いたメールに返信を打ち込むんでいた。 「『サマーナイト・デート・プロジェクト』。無事に兄様を誘導することに成功しました」  大夕海祭は夕刻ノ魔を封印することが第一の目的であるが、時間的に余裕があり夢葉は密かに別の計画も立てていた。
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