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いつも、不意打ちをかけて自分の額を突いては、「可愛い」と言っている、彼の清々しい顔が・・・。
何度も何度も、努のことを思い出してしまう。机に向かっては努のことを思い出して、頭を打ち付けたりして気分を落ち着かせてから机に戻って・・・と、優香はずっと、このサイクルの繰り返しが、かれこれ、一時間は続いていた。
「だ、ダメだわ・・・。勉強に集中できない・・・。お母さんったら」
一時間も経ったというのに、解けた問題は十問だけ。しかも、簡単な問題をだ。勉強の効率が下がってきている。優香は顔を赤くして、余計なことを言ってくれた母に恨みの言葉を漏らすのであった。
優香は今の高揚した気持ちを落ち着けようとベランダに出る。熱帯夜の時のようなもあっとした生温かい風ではなく、少し涼しくなった風が彼女の肌を撫でる。優香は目を閉じて風を全身で感じ取り、気分を落ち着かせる。
やがて、鼓動も静まり、赤くなっていた頬も元の色に戻った。
「はー・・・」
ようやく、気分は落ち着き、優香は溜め息をつくとベランダの縁に肘を乗せて夜空を見上げながら呟く。
「これって、やっぱり・・・」
自分の気持ちを整理していくと、どうしても、一つ結論に至る。
「恋なのかな・・・」
無意識だった。
無意識に自分の気持ちを口にしていた。
「恋って、誰が?」
「私が・・・え?」
優香は身体が硬直した。部屋には自分しかいなかったはずなのに、明らかに第三者の声がしたから。他に誰かがいるというのか。
(まさか、逢魔!?)
優香は真っ先に思ったのは逢魔の存在であった。逢魔ならば、人目を気にすることなく逢魔の狭間を使い自由に動き回ることができる。
まさか、こんな時に。ここに、努はいないというのに。いくら、優香が死者や逢魔を見ることができるようになったとはいえ、それに対抗すべき力など持ち合わせていない。今、襲われたら最期、無抵抗のままで殺されるしかない。
優香はバッと振り返り、声をかけてきた相手を見ようとした。死者なのか、逢魔なのか。
(いったい、誰・・・!)
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