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私は一歩、二歩、後退りをし、勝ち誇った顔の女と愛しいあの人の困惑した顔を交互に見る。
「お、警察が効いたかな?フフ…ほーらかけるよー?かけちゃうよー?」
男が泣きそうな顔で、声に出さずに「ごめん」という口の動きをしたものを見た瞬間、私は走り出した。
走っているうちに、二本足からいつもの四つ足に戻り、身体もいつも通りに小さくなっていった
私は無我夢中で走った。
繋がった。
ようやく分かった。
そういう事だったのか。
彼は変わらないのに、私ばかりどんどん歳をとっていく。
私が彼と結ばれる事はない。
彼との子供を産めない。
アイルがご主人と子作りしない。
しないのではなく出来ない。
それは猫と人間だから。
苦しい。
辛い。
ねえ、私はどうしたらいい?
辛すぎて生きていける気がしない。
胸が苦しい。苦しいよ。
そうだ…こんな時は…アレ…。
アイル…アレを私に頂戴…。
アイルの家の前に到着し、塀に飛び乗って庭に降り立つ。
大きなガラス戸から、ご主人の腕に抱かれたアイルを見付ける。私がカリカリと戸を引っ掻くと、アイルとご主人が私の存在に気がつく。
「アイルのお友達かい?中へお入り。」
ご主人がアイルを胸に抱きながらガラス戸を開けてくれる。
「どうだった?マオ。」
「辛すぎて苦しすぎて、それを忘れられる楽しくなるアレが欲しいの。」
アイルは優し気に微笑み、ご主人に猫撫で声でアレをおねだりしている。
鼻の下を伸ばしてデレデレしたご主人は、私達に「ちょっと待ってね。」と言ってアレを与えてくれる。
頭が、ぽわ~んとする…あ、なんか…気持ちい…い…。
「っかー!きたー!マオどうだ!」
「いい!いい!あ、何か楽しい!」
「だろお!」
遠くの方で、
「マタタビが欲しくなったらまたおいで」
なんていう優しいアイルのご主人の声が聞こえる。
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