第1章

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私は一歩、二歩、後退りをし、勝ち誇った顔の女と愛しいあの人の困惑した顔を交互に見る。 「お、警察が効いたかな?フフ…ほーらかけるよー?かけちゃうよー?」 男が泣きそうな顔で、声に出さずに「ごめん」という口の動きをしたものを見た瞬間、私は走り出した。 走っているうちに、二本足からいつもの四つ足に戻り、身体もいつも通りに小さくなっていった 私は無我夢中で走った。 繋がった。 ようやく分かった。 そういう事だったのか。 彼は変わらないのに、私ばかりどんどん歳をとっていく。 私が彼と結ばれる事はない。 彼との子供を産めない。 アイルがご主人と子作りしない。 しないのではなく出来ない。 それは猫と人間だから。 苦しい。 辛い。 ねえ、私はどうしたらいい? 辛すぎて生きていける気がしない。 胸が苦しい。苦しいよ。 そうだ…こんな時は…アレ…。 アイル…アレを私に頂戴…。 アイルの家の前に到着し、塀に飛び乗って庭に降り立つ。 大きなガラス戸から、ご主人の腕に抱かれたアイルを見付ける。私がカリカリと戸を引っ掻くと、アイルとご主人が私の存在に気がつく。 「アイルのお友達かい?中へお入り。」 ご主人がアイルを胸に抱きながらガラス戸を開けてくれる。 「どうだった?マオ。」 「辛すぎて苦しすぎて、それを忘れられる楽しくなるアレが欲しいの。」 アイルは優し気に微笑み、ご主人に猫撫で声でアレをおねだりしている。 鼻の下を伸ばしてデレデレしたご主人は、私達に「ちょっと待ってね。」と言ってアレを与えてくれる。 頭が、ぽわ~んとする…あ、なんか…気持ちい…い…。 「っかー!きたー!マオどうだ!」 「いい!いい!あ、何か楽しい!」 「だろお!」 遠くの方で、 「マタタビが欲しくなったらまたおいで」 なんていう優しいアイルのご主人の声が聞こえる。
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