第1章

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黒髪短髪、切れ長の一重瞼、鼻は低く、薄い唇の上には無精髭。 男らしい日本男児の風貌に似つかず、まつ毛は意外と長かったりする。 目を閉じていると、より一層それが際立つ。 一糸纏わぬ姿で私の横で眠る男の完璧に引き締まった身体はイヤらしさ、卑猥さは皆無で、宛らミケランジェロのダヴィデ像の様である。 勿論私の方も、余計な布切れなぞ身につけていない。 私達はずっとこうして寄り添って寝てきた。 そうして、それはこれからもずっと。 私達が一緒に暮らしてどれぐらいになるだろう。 少女の頃、駆け落ち同然でこの男の元に来た。 青春は全てこの男に捧げ、私は大分オトナになった。 男の無邪気な寝顔に自分の顔を近づける。 貴方はちっとも変わらないわね。 温かく湿った男の首筋に鼻をつけ、鼻腔を膨らませる。 そうして、どんなフレグランスよりも芳しい男の匂いに、暫し酔いしれる。 私は堪らなくなり、首筋から顎、唇に舌を這わせて男を味わう。 男の息遣いが荒くなり、体がモゾモゾと動く。 「っん…んは…ん…あ、あれ?マオ?」 スゥッと目を開けて私の名前を呼ぶ男は、まだ夢の中にいるかの様。 「起きた?」 私は上目遣いで男を見つめる。 そんな私の頭を優しく撫でながら、男は再び目を閉じる。 ずっとこうしていたい…。 そう思う一方で、私は男を起こすべく、テレビをつける。 朝の占い…牡羊座とかさそり座とかどうでもいい星座のラッキーアイテムがどうという説明を、どうでもいい気持ちで眺め、男の星座である双子座の出番を待つ。 「今日の一位は、双子座のあなた!」 一位!おめでとう! 「双子座のあなたは素敵な出逢いが訪れる予感!ラッキーアイテムは、スニーカー!」 素敵な出逢いだと?ふざけんなよ! 苛立った私は、テレビを消すべく、リモコンを思い切り踏ん付けるが上手くいかない。 チッ 頭をワシワシ掻いた後、男の方を振り返る。 男は寝ているから、そんな下品でガサツな私の行為など見られてい… た。 驚いた顔の男と目が合う。 「いやあの…これは…」 「やっべ!もうこんな時間か!」 ベッドから飛び起きると、慌てて洗面所に走る男の背中を見つめて虚しくなる。 男は私を見て驚いていた訳ではなく、テレビに表示されている時計を見ていただけだった。 アウト オブ ガンチュウ 私は胸の内で溜息を吐く。
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