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3 サマールビー
美百合の様子は明らかにおかしい。
突拍子も無い、予想もつかない美百合のぶっ飛び行動はいつものことだが、この夢でも見ているような、頼りない潤んだ眼差しは、かつて見たことのある、やばいクスリの中毒者を思い出させる。
頬に添えられた美百合の手のひらが、発熱しているように熱い。
「ストロベリードロップス!」
先ほどまで繋がっていた電話の相手の単語を思い出し、リダイヤルして問いただそうとするが、
美百合が怒ったように携帯を叩いて、それを阻止した。
「ヤダ龍一。抱いて」
「ちょっと待て、これ一本かけてから――」
「じゃいいもん。浩ちゃんとこ行く!」
とんでもないことを言い出した。
「浩ちゃんは私が寂しければ、いつでも来ていいって言ってくれたの」
龍一は驚きで目を丸くする。
「だって龍一はメール一通くれるでなし。生きてるのか、死んでるのかもわかんなくて、本当に辛かったのよ」
離れて暮らしていた間のことを話しているのだと、理解した。
だけど何故いま言い出すのだ?
「龍一に会えなくて寂しかったけど、私、一生懸命我慢したの。
だったらもう我慢なんかしない。龍一が抱いてくれないんなら、私、浩ちゃんに抱っこしてもらう!」
瞬間、
燃え上がるような嫉妬の炎に焼かれて、今にも駆け出そうとする美百合の身体を捕まえた。
「放してよ、放してったら!」
暴れる美百合にキスをしたら、とたんにおとなしくなった。
「……ん」
驚くほどの大胆さで、龍一に深いキスを返してくる。
『これは……』
龍一は器用にそのキスに応えながら、思考する。
先ほど電話の向こうで言った上司の言葉だ。
「ストロベリードロップスという名の催淫剤が、いま子どもたちの間で流行っている。
その出所が、どうやら君が住む地域の広域暴力団らしいんだが、何か噂でも聞いたことはないか?」
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