3 サマールビー

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何度かの絶頂を味合わせてやると、美百合はようやく意識を失い静かになった。 起こさないようにそっと布団をかけてから、服を着て階段を下りる。 「龍一くん?」 美百合の父親が心配そうにリビングから出てきた。 いろいろ聞きたそうな父親を制しておいて、龍一は『元』上司、桜庭の電話にリダイヤルする。 「ストロベリードロップスとは、いったい何なんですか!」 繋がるなり響いた龍一の怒声に、さすがの相手も驚いたようだ。 「言葉の通りイチゴだよ。イチゴの形をした女性にしか効かない催淫剤。 ひとつぶでその効果は抜群らしいね。ただし数を食べると中毒性があり、催淫効果から抜け出せなくなる。食べ続けた女性はサキュバス(夢魔)化して、組のいい資金源だ」 突然の質問にも無駄無く答える『元』上司は、龍一の端正な顔の下に隠されている激情の恐ろしさを知っている。 冗談やはぐらかしが通用する時と場合をわきまえていて、龍一の質問に、訳も聞かずにそつなく答えた。 龍一は思考をめぐらす。 龍一の記憶にある限り、美百合がウチのイチゴ以外を口にしたことはない。 考えられる原因は、ハウスにある龍一が作ったイチゴだけだ。 だが、何故そんなイチゴがウチに()る? 「覚醒剤より後遺症が少ない上に、外見はイチゴそのものだから、警戒している女性にも簡単に食べさせることが出来る。 食べさせさえすれば、女性を都合良く扱うことが出来るし、中毒にして店で長く働かせることも可能だ」 桜庭は、 「どこから流れたのか、一部の子どもたちの中で流行り始めている」 と何でもないことのように続けて、 「ただ現在のところ、我々が乗り出すほどの物じゃないと判断された。販売コストが実収入に見合わず、都心全体にまで広がる様子はない。 それに季節性のフルーツだ。年間を通して安定した供給が見込めなければ、一時の流行で終わるだろうという見解だ」 「そんな呑気なシロモノですか! 自分の意思を無視されて被害にあった女性たちの傷は、いったい誰が補償するんです?」  龍一の激高に、電話の向こうで『元』上司が肩をすくめる気配が伝わってくる。 政府は、個人がこうむる被害程度では、なかなか重い腰をあげない。
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