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龍一は軽く舌打ちをする。
昔から性犯罪が一番きらいだった。
『元』上司はぬけぬけと、
「薬効は子供のオモチャ程度の物だ。キチンと抜いてしまえば、覚醒剤のような揺り返しの話も聞かない。
たまたま君の住む地域が発生源だったから、君へのご機嫌覗いを兼ねて知らせてみただけだよ」
「ご丁寧な時候の挨拶、いたみいります」
龍一はせめてもの仕返しのつもるで、声にイヤミの色を込める。
しかしまったく効果はなく、桜庭は鼻先だけの返事を返してきただけだ。
この『元』上司、そんなしおらしいタマじゃなかった。
それに今回の件すらも、おそらく事が大きくなる前に、龍一の好奇心を刺激して、体のいい情報源にしようとした思惑が見て取れる。
だが実際は、情報源どころか当事者に成り下がっているではないか。
――なんたる失態!
「では何故、そのオモチャがウチのハウスに生るんです」
怒鳴りかけて、ふと不安に打ち震える。
「俺のせいですか? 俺の正体が外に漏れた?」
龍一のかつての仕事ぶりに、復讐を企む組織ならいくらでも名前が浮かぶ。
「いや、それはありえない」
しかし桜庭はすぐに否定した。
「君の過去は完璧に隠蔽されている。この通話も特殊な妨害電波によって盗聴される心配もない。我が国の防御システムは、そんなに安易に突破出来るものではないよ」
その声は確かな自信に裏打ちされている。
ならば、何故だ!
「偶然としか言いようがないね。ストロベリードロップスを作るには養液栽培のイチゴ畑が必要だ。
栽培方法はいたって単純。イチゴ栽培の養液の中に、ある薬品を混ぜてイチゴを育てる。時が過ぎ、甘い果実が実ればストロベリードロップスの完成ってわけだ」
桜庭は続けた。
「君のイチゴ畑が、運悪くヤツらに目をつけられた。理由はそれだけだろう」
『元』上司の気の毒にといった調子の声音に、龍一はますます怒りを燃えたたせる。
『誰か知らんが、明日の朝日を拝めると思うな!』
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