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浩輔は、龍一がそれ以上の拷問の手段に出る前に、桜庭が告げたのと同じ組の系列の、こちらの地方支部の名前を吐いた。
「妙なクスリだなんて知らなかったんだよ。ただお前がイチゴの栽培に失敗すればいいと思っただけだ。
だけどあいつら、失敗したイチゴも買い取ってくれるって言ったし、美百合ちゃんに恩も売れるいい機会だと思って――」
ベソかきの口調で言い訳をする浩輔に、
「一緒に来てもらう。あいにくアポイトメントを取る時間はない」
冷たく命じる龍一に、
「歩けねーよ」
撃たれた腿を押さえて反論ばかりする浩輔には、無言で銃のトリガーに指をかけてやれば、前言撤回とばかりに素直に歩き始める。
銃に浩輔のシャツを被せて、浩輔の背中を狙いながら堂々と家の中を通って外に出る。
幸いなことに浩輔の家族には気づかれることはなかった。
浩輔に車の運転をさせ、この小さな田舎街の寂れた繁華街と呼ばれる地域にある、組の支部の入り口に立つ。
都会ならこの時間、一番華やかな刻のはずだが、田舎街でしかないこの場所は、数件の居酒屋が賑わっているに過ぎない。
周辺も、かろうじて人の気配を感じさせる程度だ。
入り口を示して、『行くぞ』と指示したら、
「お前、まさか策なしで突っ込む気じゃないだろうな?」
浩輔が震える声で尋ねてきたので、龍一は余裕の笑みで教えてやる。
「この程度のヤツらに、策など講じる必要は感じないね」
「はあ? お前自分が何言ってるのかわかってんの? ここをどこだと思ってんの? 暴力団事務所だぜ」
「暴力団事務所? 幼稚園の間違いじゃないのか?」
龍一は言って、常夜灯の灯りしかない玄関のドアをいきなり蹴って開ける。
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