110人が本棚に入れています
本棚に追加
明け方龍一は、愛車のプジョーを自宅の玄関に突っ込む勢いで横付けすると、
玄関先で頭を抱えてうずくまり、憔悴しきった様子の父親に声ひとつかけてやることなく、一足飛びで階段を駆け上がっていく。
美百合は、昨夜龍一が縛りつけたままの姿で、ベッドの上にいた。
ただし、猿ぐつわの奥から低い嗚咽を漏らす美百合の様子は、涙と鼻水と涎で滅茶苦茶で、とても無残だった。
きっと夜中じゅう暴れたのだろう。
美百合の身体は全身汗だくで、そして自分が漏らした汚物にまみれている。
「……美百合、すまない。すまない……」
龍一はすぐさま美百合をすべての拘束から解放し、汚物に構わずその胸に強く抱きしめる。
「――りゅう……いち……」
息も絶え絶えな様子で美百合は龍一の名を呼んだ。
「美百合、すまない」
龍一は何度も謝罪しながら、美百合の身体を抱きしめる。
美百合のこんな哀れな状態に、胸をえぐられるような後悔に襲われる。
こんなにひどい目にあわせてしまった。
何か他の方法を選べなかったのかと、自分の無能さに自分を殴りつけてやりたくなる。
「龍一ぃ……」
美百合も泣くが、龍一も泣く。
思わず知らず涙が頬をつたう。
己の力の無さが情けなくて、堪らなかった。
「痛かったか? ごめんな。辛かったろう」
だが美百合は、
「龍一、どこにも行っちゃヤダ」
とむせび泣く。
龍一は、
「……そうだな。すまなかった」
ますます強く、美百合をかき抱く。
最初のコメントを投稿しよう!