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1 ベルルージュ
インターフォンも鳴らさずに、いきなり玄関を開けて入ってきた男に、龍一はドアの影からするどい肘撃ちの一撃を飛ばして、
「美百合ちゃん、心配してた夏イチゴ、もし失敗しても買い取ってくれるって業者を見つけたから、良かったら一緒に話を聞きに――」
男の顎に喰らわす寸前で、なんとか攻撃を止めた。
腕を畳み、何事もなかったように装う。
龍一の動きは早すぎて、男には、何が起こったかなんて理解出来なかっただろう。
目を剥いたマヌケ面でこちらを見るのは、隣家に住む長男の吾妻浩輔。
隣と言っても、田舎だから50Mは離れているが、一応ご近所さんだ。
「美百合は今でかけていますが、何かご用ですか?」
龍一は、その顔に愛想笑いの欠片も浮かべずに聞く。
少し整いすぎたきらいのある自分の顔は、表情を作らなければ、驚くほど冷たく見える。
そんな龍一の眼差しに、浩輔は少し怯んだように後ずさりする。
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